あの日、どこかに置いて来たもの。

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  ゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。..。.:*・゚  俯いた瞬間、最近気に入っているキャメルのロングコートが目に入って、気分がよくなる。  暖房で暑い電車を降りて、ホームからの階段を駆け上がり、改札を抜けてまた階段を降りて、なんてことを1分くらいの間に済ませたら、この2月の寒空の下でさえ少し汗ばんでしまった。  コートの前を開けて歩き出すと、何かのキャンペーンでもやっているのか、同じ服装の若い女性が何人か立っていた。  目の前にポケットティッシュが差し出され、俺は女性の顔も見ずにそれを受け取る。  ティッシュをくれた女性とすれ違った瞬間、馴染みのあるトリートメントの香りがして、俺は立ち止まってしまった。  前は、この香りが何の香りなのかよく知らなかった。  シャンプーか香水なんだろうと、勝手に思っていた。  けど、流華さんと何度も寝ているうちに、これは女性用のトリートメントの香りだということを知った。  本末転倒だなぁと思いながら、俺はゆっくりとティッシュをくれた女性を確かめるべく、振り返る。  その瞬間嫌な予感がして、咄嗟に自分で自分の腰をドンと叩いてしまった。  一人身とはいえ、決して欲求不満じゃないぞ。俺は。 .
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