あの日、どこかに置いて来たもの。

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   思わず反応しそうになった自分の妙な性に舌打ちをして、俺は改めてそのひとを見た。  ……溜め息が出た。見ようと思った時点で反応しそうになったわけだ。  翠川愛美がそこにいて、笑顔でポケットティッシュを配っている。  真っ先にそこが反応した自分は一体何なんだろう。襲われるように、自己嫌悪に陥った。  通行人を確認して足元のダンボールからティッシュの束を取り出し、落とさないように抱える愛美さんを見ながら、不意に息苦しさに気付いた。  俺は自分の胸元を強めに撫でながら、ふうー……と長い溜め息をつく。  違うつもりでいたけど、ひょっとして馬鹿なのかな、俺。  去年、春を前に愛美さんに振られて、それなりに懲りていたはずだ。  駄目押しとばかりに流華さんとも色々あって、結局終わって、ってことがあったのに。  ……まだ、姿だけでドキドキするとか、自分でも信じられない。  この数ヶ月、彼女だけでなく流華さんを思い出すこともあまりなくなって、穏やかに過ごせていると思っていたのに。  どうして今、まるで火傷を負ったときのように心がずくずくと熱く疼いて、痛いとか思ったりするんだろう。 .
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