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俺が咄嗟に思い出せることだけで確信が持てるんだから、そういう目で見たら流華さんはどんな女性に映るのかな、なんて思ったりして。
……確かめるような勇気は、ないけど。
「あの時のライブで歌ってた人。あれ、高校生の頃付き合ってた人なの」
何と答えたらいいか判らなくて、うん、と小さく頷いた。
判ってたよ、なんて畳み掛けるように言える程の確信じゃない。そこまで流華さんの首根っこを捕まえに行ってどうするんだよ、って自分で自分に訊きたくなってしまうし。
そこで意地にならない自分にふと気付いて、笑い出しそうになってしまった。普通、高校生ってもう少し全力で生きてるもんだよな、とか思って。
年上の流華さんに負けたくなくて、俺だってこれくらい判ってるんだからね、なんて──そんなふうにムキになったって、いいじゃないか。
けど、年齢だけじゃなくて俺は最初から流華さんには負けている。彼女がずっと前から俺の存在を認識していたことも含めて、色々。
恋の今際に無様に足掻いてみたところで、それはまったく俺らしくないと思った。
壊れるものは徹底的に壊れるまで見届けてみたい、という気持ちもあるにはある。
だけど、流華さんと俺の恋愛はそういうものではないと思うから。
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