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「……で。やっぱり、流華さんとは別れたんだな?」
斉木のその目も、声も、ふざけてる様子はまったくなかった。
だから俺は、沈黙したままコクン、と頷く。斉木はふうと息をついた。
「……今度は大丈夫だった?」
「今度って?」
「お前がちゃんと納得できてたのかってこと」
俺がそのまま表情を止めると、斉木はそのまま複雑な笑みを浮かべた。
「んだよ、その顔。心配して当たり前だろ。これでも機会窺ってたんだからな」
「何の機会だよ」
「訊いてもよさそうってか、お前が怒らなさそうな機会?」
斉木の言葉に、ぱちぱち、と何度も瞬きをした。
別に、いつ訊かれたからって怒ることなんてないけど、でも……。
機嫌が悪くなることはあるかも知れない。時と場合によっては。
まあ、斉木が言っているのはそういうことなんだろう。そういう意味でならめちゃくちゃよく空気を読んでいる。それに免じてというわけではないけど、俺は小さく笑って肩を竦めた。
「怒らないよ。もう1ケ月も経ってるし」
「ああ、やっぱそんなに経ってるのか」
斉木は一瞬気の毒そうな目を俺に向ける。けど、微妙に哀れみの視線ではなかったから、気にしないことにした。
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