綺麗ごとでないこと。

8/19

313人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
  「……で。やっぱり、流華さんとは別れたんだな?」  斉木のその目も、声も、ふざけてる様子はまったくなかった。  だから俺は、沈黙したままコクン、と頷く。斉木はふうと息をついた。 「……今度は大丈夫だった?」 「今度って?」 「お前がちゃんと納得できてたのかってこと」  俺がそのまま表情を止めると、斉木はそのまま複雑な笑みを浮かべた。 「んだよ、その顔。心配して当たり前だろ。これでも機会窺ってたんだからな」 「何の機会だよ」 「訊いてもよさそうってか、お前が怒らなさそうな機会?」  斉木の言葉に、ぱちぱち、と何度も瞬きをした。  別に、いつ訊かれたからって怒ることなんてないけど、でも……。  機嫌が悪くなることはあるかも知れない。時と場合によっては。  まあ、斉木が言っているのはそういうことなんだろう。そういう意味でならめちゃくちゃよく空気を読んでいる。それに免じてというわけではないけど、俺は小さく笑って肩を竦めた。 「怒らないよ。もう1ケ月も経ってるし」 「ああ、やっぱそんなに経ってるのか」  斉木は一瞬気の毒そうな目を俺に向ける。けど、微妙に哀れみの視線ではなかったから、気にしないことにした。 .
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

313人が本棚に入れています
本棚に追加