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「坂田さん、歌わないんですか?」
「ん? 俺? ダメダメ、そんな上手じゃないから」
「いい声なのに、もったいない……」
坂田さんの歌を隣で聴ける、と期待してしまったせいで、つい本音が口から出てしまう。
「……周りがうまい人ばっかりだとね、なんか、気後れしちゃって」
「周り?」
「うん、斉木とか、あと、昔の先輩とか」
口を尖らせて、拗ねたように坂田さんは指を折りながら口にする。
「……もしかして、それで斉木さんに隣に行ってもらったんですか?」
「うん、そう」
「……」
「だって、腹立つよ。答辞の原稿読みあんなだったくせに、歌になるとすごい口回るんだ、あいつ」
その言い方が子どもみたいで、あたしは思わず口を押さえて吹き出してしまった。
坂田さんは眉根を寄せて、あたしを見る。
「笑うとこだった?」
「い、いえっ、すみませ……」
「まあね、いいけど。どうせ女の子は、カラオケで歌のうまい男の方走っちゃうんだから」
モテたいわけじゃないからいいけど、と苦笑しながら、まだ坂田さんは不満そうだ。
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