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「俺の、前の彼女ね」
「はい……?」
「さっき言った、昔の先輩。結局そっち選んで行っちゃったから」
「……そうなんですか」
「まあ、歌がうまいから選んだわけじゃないのは、重々承知してるけどね。逃げられたら追えないんだ、俺」
さらっと明るく言った坂田さんは、気にしているようには見えなかった。
バックでは、ちいちゃん達がちょっと前に人気だったテクノ系のグループの曲を歌っている。キラキラした音が、部屋中に響いていた。
「織部さんは?」
「え?」
「織部さんは、彼氏とかいないの?」
「いたら、収なんかに付き合ってないです」
「そっか。俺といっしょだ。いたら、斉木なんかに付き合ってない」
すると、軽いノックのあとドアがゆっくりと遠慮がちに開けられた。
ドリンクとお菓子を持った店員さんが入ってきて、坂田さんとあたしはそれを交互に奥に回していく。
揚げたての唐揚げのバスケットを奥に回そうとすると、坂田さんの手に止められた。
「それ、ここ」
ニコリ、と笑いながら坂田さんはあたしとの中間点くらいに置いた。不思議に思って彼を見上げる。
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