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また雨だな……と思わず溜め息を漏らした。俺は、隣にいる彼女のつむじを見下ろす。
最近、そんなに背の高くない女の子の頭のてっぺんを、こうして見下ろす癖がついている気がする。
高校生活の後半で背が伸びたから嬉しい……とかじゃない。ただ、ある日急に目に付くようになっただけだ。あ、見えてる。っていう感じで。
女の人の足やスカートの裾と違って、頭のてっぺんを見ていたからといって見咎められることはない。
見られてる、と意識する人もいないし。だからつい、堂々と見てしまうだけだ。
そのとき、彼女ははたと顔を上げ、そのまま俺と目が合った。
ギクリ、と小さく動揺したのが判った。少し見開かれた目が、うろうろと動く。
すると彼女は、頭のてっぺんを軽く撫でて髪を梳きながら、またちらりと俺を見上げた。
「……さ、坂田さん……もしかして頭、見てました……?」
え、と一瞬言葉に詰まる。見咎められた、というのとは少し違うと思うけど、びっくりした。
「……うん。何となく」
やましい気持ちがないことに対して慌てて否定するのもおかしいかな、と思って正直に頷く。
すると、彼女──織部陽香──は、一気に顔を赤くした。
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