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織部さん達がなになに、と顔を見合わせる中、自分の身体の血が引いていくのを感じる。
「……斉木の声じゃないか……」
途端に、ガンガンと額が痛み出した。あいつ、何かやらかしたな。
額を押さえながら俺がフロントの奥へ足を進めようとすると、2年生の男の子が「俺も行きます」と駆け寄ってきてくれた。
声がした方へ足を進めると、有線のうるさい音に紛れて、水音が聞こえる気がした。
「さ、坂田さん……さっきの声……」
振り返ると、2年の男の子の後ろから織部陽香がヒョコ、と顔を出した。
その表情で、さっきの雄叫びの主が彼女にも判っているのだということが窺える。
「うん、たぶん」
俺が小さい声でそう答えると、織部さんは心配そうに俯いた。
……だから……目が合ったくらいでほんのり頬を染めるとか、自重した方が……。
そう言いたいのを何とか飲み込んで、俺は更に足を進めた。
水音が激しくなってきて、嫌な予感は心臓が脈打つごとに、確かなものへと変わっていく。
やがて化粧室のドアが目に入ったとき、眩暈がした。
“水圧が不安定な為、他のお手洗いをお使い下さい。”
ドアのすりガラス部分に、べたりと張り紙がしてあった。水音は、ここからだ。
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