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──そして。
俺の袖口を掴んだまま、その顔が真っ赤になった。
たぶん、今日一番の赤面。
……何だろう、自分でも全然説明がつかないんだけど。
織部陽香のその顔を見た瞬間、今まで気付かずにいた全部のことが腑に落ちてしまった。
足を一歩進めて、俺の持っていた黒い傘が、彼女の持っていたビニール傘を弾く。
彼女の手から傘が離れて、あ、という声が漏れた。
視線で傘を追いかけた織部陽香の頭を抱えるようにして、俺は。
足元にビニール傘が落ちる前に、わずかに開いた織部陽香の口唇を、自分のそれで塞いだ。
やってしまってから、彼女の湿り気を帯びた髪から漂う香りに、眩暈がする。
送り狼──なんてださい真似を自分がしてしまうなんて。
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