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「いえ、あの、去年やってたドラマ思い出しただけです」
「去年?」
「知りませんか。学生の男の子が、夜になったら色んな人に依頼されて、別人に成りすます、っていう」
「ああ、何かあったね」
「その中で、お金持ちの若奥さんの愛人に扮するってエピソードがあって。若奥さんと会うのに、会員制のクラブに出入りしてたなあ……って」
「……確かに高校生は入れないだろうね、そういうところは」
想像が飛躍しすぎだよ……と大笑いしそうになって、咄嗟にこらえる。
俺の顔色で何か察したのか、織部さんは少し顔を赤くしてすみません……と小さく呟いた。
彼女が言ったのは確か、深夜ドラマだったような。
ラブシーンとか危ないシーンがけっこう多い枠の。毎回と言っていいほど、違う女性とのキスシーンの番組スポットが流れていた記憶がある。
愛人に扮する、ってことで露骨なラブシーンでもあったのかも知れない。
織部さんが帰ったら、ドラマの棚を見てやろう、と決めた。
「ところで、来るにしても早くない? まだ10時過ぎだよ」
「あ、今日、担任の先生が風邪で休んでて……授業はもうほとんどないし、無意味に自習にするくらいなら帰っちまえ、って副担任が」
「とんだ英断だね」
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