その目がいけない。

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   中身は──20年くらい前の映画。  置いてないかと彼女に訊かれて、検索をかけたことを覚えている。自分の観たいものではなく、お母さんから聞いてきたんだと言っていた。  ……先週は、普通だったのにな。  とりあえず軽く頷き、ビデオの返却日を確認してバーコードを通す。  ちら……と視線を上げると、今にも伏せられそうな睫毛の奥の瞳が、うっすらと赤い。  ゴクリ、と喉の奥で息を呑んだ。  いつもはにかんだような笑顔を見せてくれる女の子の、涙の気配を目の当たりにしただけなのに、服の下の心臓が胸を叩く。  体温が上がったり、アルコールを入れたりしたときに、顔に出るたちでなくてよかった、と思った。  ……女の人を好きになるときは、いつも気付いた瞬間“好きだ”と心のどこかで自覚してた。  でも、今はとりあえず違う、って思っている自分がいる。  織部さんは可愛い女の子だと思ってる。  まだ何の色艶もついていない、さらりとマットな印象が清潔感に拍車をかけているし、こういう感じが好きな男が近くにいれば、すぐモーションをかけられるに違いない、とさえ思う。  幸か不幸か、織部さんの近くにはそういう男がいない。 .
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