その目がいけない。

4/16
前へ
/30ページ
次へ
  「何するのよ」 「いえ、プライベートのことなんで。あとで彼女にメールしてみます」 「返しに来たとき、話せばいいじゃない」 「ギャラリーがいるところで込み入った話なんてできません」 「仕事中だしね」 「判ってたら黙ってて下さい」  瀬戸さんの左の眉が、ぴくりと上がる。  え、と何か予感した瞬間、瀬戸さんはカウンターから出て行ってしまった。  まさか、と思ったらCDコーナーの方へ行ってしまった。準新作のコーナーとは真逆であることにホッとした瞬間──。  CDコーナーのランキングの棚を回り込んで、瀬戸さんはDVDコーナーへと足を進めていた。 「え」  瀬戸さんは一瞬だけ俺を振り返ると、ニヤ、と笑った。 「ちょっと……!」  待って、と声を上げようとした瞬間、自動ドアが開いてお客様が入ってきた。 「ま……、い、いらっしゃいませ……」  何する気だ、あの暇を持て余した人妻……。  その場で座り込みたくなるくらい、脱力した。  身体をフロアに向けたまま、後ろ手でさっきのスイッチを弾いた。  ちら……と視線を落とすと、織部さんの丸い頭のてっぺんの向こうから、瀬戸さんが少しだけ顔を覗かせて、防犯カメラにピースしている。  何、あのどや顔。 .
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

225人が本棚に入れています
本棚に追加