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「何するのよ」
「いえ、プライベートのことなんで。あとで彼女にメールしてみます」
「返しに来たとき、話せばいいじゃない」
「ギャラリーがいるところで込み入った話なんてできません」
「仕事中だしね」
「判ってたら黙ってて下さい」
瀬戸さんの左の眉が、ぴくりと上がる。
え、と何か予感した瞬間、瀬戸さんはカウンターから出て行ってしまった。
まさか、と思ったらCDコーナーの方へ行ってしまった。準新作のコーナーとは真逆であることにホッとした瞬間──。
CDコーナーのランキングの棚を回り込んで、瀬戸さんはDVDコーナーへと足を進めていた。
「え」
瀬戸さんは一瞬だけ俺を振り返ると、ニヤ、と笑った。
「ちょっと……!」
待って、と声を上げようとした瞬間、自動ドアが開いてお客様が入ってきた。
「ま……、い、いらっしゃいませ……」
何する気だ、あの暇を持て余した人妻……。
その場で座り込みたくなるくらい、脱力した。
身体をフロアに向けたまま、後ろ手でさっきのスイッチを弾いた。
ちら……と視線を落とすと、織部さんの丸い頭のてっぺんの向こうから、瀬戸さんが少しだけ顔を覗かせて、防犯カメラにピースしている。
何、あのどや顔。
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