その目がいけない。

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  「坂田くん、連れてきちゃった」  妙に嬉しそうな瀬戸さんに、また若干苛々が募るけど──とりあえず。 「いらっしゃい、織部さん」  俺は、織部さんの手を取っている同僚を全力で無視した。織部さんにだけニコッと微笑みかけたのが判ったのか、瀬戸さんはむっと口を尖らせる。 「できないみたいだから代わりに行ってあげたのに」 「お願いした覚えはないんですが」 「ええ、ここはお礼言われるところだとばかり……」 「頼んでないんで、言いませんよ。それより、手を離してくれませんか」 「あ」  嫉妬に似た妙な気分だ……と思いながら、瀬戸さんが織部さんに笑いかけるのを見ていた。 「ごめんなさいね、つい気になっちゃって」 「いえ……」  さっきから黙ったままだった織部さんは、ようやく笑った。  無理に作った顔だというのはすぐに判ったけど、今ここでそれについて追求するわけにはいかなかった。  バイト中だから、というのはもうほとんど表向きだと思う。 「あ、そうだ……」  織部さんは思い出したように、カバンの中を覗き込んだ。 「お願いします」  どこか元気のない声で言いながら、織部さんはゴトン……とカウンターの上にレンタル用の小さな手提げを置く。 .
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