清水の舞台からなんとやら

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  「寒い?」 「……そ、そ……じゃなくて……」  思わず声の出し方も忘れてしまいそうになった。 「嫌だったら、逃げてもいいよ」  言いながら、坂田さんの腕の力がふっとゆるむ。思わず溜め息が漏れた。  ……嫌だったらって……。  そう言って拒否をする自分を想像して、思わず泣きそうになった。 「……わ、判んない、です……」 「そう」  坂田さんはクッと小さく笑った。  声のいい男の人って、笑っただけでなんでこんなに女心をくすぐるんだろう。  あたしが声フェチだからってわけじゃないのは、自分でももう判っているけど。  どうしたらいいか本気で判らなくて状況を預けていると、膝の上のペットボトルが重心のバランスを失って、滑り落ちる。  足元でゴトンと音がして、条件反射で慌ててそっちを見ようとした──瞬間。 「……駄目だよ。織部さんが見るのは、こっち」  あたしの背中に回されていた彼の腕が一瞬のうちに駆け上がってきて、またうなじを撫でられた。  長い髪を梳くようにして、まとめて一方向に流したかと思うと、坂田さんの手はあたしの頭を抱えるようにする。  真正面に坂田さんの真剣な瞳があった。  近すぎて、怖くてびっくりして──だけど。 .
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