213人が本棚に入れています
本棚に追加
後ろを見ないで彼女の両腕を掴むと、俺はそのまま自分の身体に巻きつかせるように少し強引に引いた。
「ひゃっ!」
とすん、と織部さんの上半身が背中にぶつかる感触。
その瞬間、妙な感動をおぼえてしまった。
自転車での二人乗りって、胸、当たるんだ……。
「さ、坂田さん……!」
軽く俺を咎める声には、覇気がない。何言われても、別に平気だけど。
だってさっき、「付き合ってくれませんか?」という俺の言葉に彼女は蚊の鳴くような声で「はい」って言ったし。
それからちっともまともに顔を見てくれないけど──理由は判りきっているから、問題はなかった。
どうしても見て欲しくなったらそれなりに方法はあるから、今は我慢することにする。
「乗る以上、恥ずかしいとか思っちゃ駄目」
「だ、だって……」
「これから何度もこういうことあるんだから……慣れようね」
「え?」
織部さんの腕が緩まないように、もう一度彼女の白い手を軽く撫でて、俺はペダルを踏む足に力を入れた。
背中で、小さい悲鳴が上がる。それをいい機会とばかりに、俺は続けた。
.
最初のコメントを投稿しよう!