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まだ充分に少女の匂いをさせる細い身体を抱き寄せて、その心地よさに瞳の奥で軽い眩暈がした。
間近で覗き込んだ瞳が驚きに見開かれて──。
彼女のその瞳を覗き込みながら、絶対に拒否をされない、と思った。
その確認を、間違いなく、した。
あの寒い雨の日みたいな愚行には二度と走るまい、と決めていたから。
口唇が触れた瞬間、ああやっぱりこれが恋しかったんだと思った。
もし、織部陽香のこの口唇の感触をまったく知らずにいたら、自分の心に気付くのがもう少し遅くなったかも知れない。
気付かないまま過ぎて行ったりしたのかも──。
そんなことを想像したら、わき腹の辺りがすっと冷たくなった気がした。
妙な確認ではあるが、間違いなくそれが恐怖の感情であることにほっとする。
固く閉じた彼女の口唇は少し湿っていて、つるりとなめらかだった。
舌先で嘗めて、食むように軽く噛んで──そうしたかったけど、腕の中の身体が可哀想になるくらいガチガチに固まっているから、あまり激しいことをするのはやめにした。
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