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しっかり抱きしめたまま口唇を少しだけ離してやると、真っ赤になった彼女の顔がそこにあった。
たったこれだけのことでもされるがままになってくれたのが嬉しくて、俺の中に悪戯心がむくむくと湧いてくる。
濡れた口唇にわざと軽く息を吹きかけると、小さな背中がピンと伸びた。
「……甘い」
織部陽香の瞳がしっかり俺を凝視しているのをいいことに、その目の前でこれ見よがしに自分の口唇を嘗めた。
彼女の瞳がうろたえるのが面白くて、俺は視線で足元を示す。
「紅茶。甘いね」
街灯だけのこの暗がりでも充分判るくらい真っ赤な彼女は、行き場がないとでも言うように俯いた。
「あ、あの……」
「ん?」
「す、すみません……」
「何が」
「あ、甘くて……すみません……」
吹き出して、笑ってしまいそうになった。
キスしていいなら、甘かろうと苦かろうとそんなの全然問題にならないのに、そんなこともまだ判らないのだろうか。
判ってはいたけど、他の男の痕がまったくないことが、嬉しくなる。
クスッと笑うと、織部さんはまた下唇を噛みしめた。どうやら彼女の癖らしい。
でもそれ、キスしにくくなるから、やめて欲しいな。
そんなことを考えながら、俯く彼女の頬を手で包み、上を向かせた。
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