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「前みたいに、引っぱたかないの?」
「……そ、それは……」
「拒まないならもう一回するよ?」
細い肩が、ブルッと小さく震える。
その反応の意味を彼女より先に悟り、何も知らなくても女なんだな……と思った。
「織部さん」
「は、はい」
「俺と、付き合ってくれませんか?」
じわ……と、織部陽香の目が一気に潤んだ。
泣いているわけではないのは、百も承知だ。
「な、なんで……」
「……なんでって」
一瞬、答えに窮する。
想いを伝えるのなら、言葉よりもっと別の方法がいいな、なんていかがわしいことが頭を過ぎった。
けど、時間には限りがあることだし、今の織部さんにそれを教えるのはまだ早い気がした。
せめて、キスに応えられるくらいにはなって欲しい。
年齢の割にいかがわしい男で申し訳ないけど、俺の本気はそこからだ。
それも果てしなく楽しみだな──と思った。
今まで、知らなかった。男には、そういう喜びと快楽を1から教えるという楽しみもある、ということを。
こんな中学生みたいなやり取りだって、したことがない。
自分に今まで欠けていたものを、もう一度拾い集められるような気がした──この娘となら。
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