225人が本棚に入れています
本棚に追加
「佐久間」
その頼りなさそうな肩をポンと叩いてやると、佐久間はビクッとして振り返る。
「……あ、な、何だ……坂田さんか……」
「今帰り? 何してんの、こんな時間まで」
「いや……ちょっと、あって……。あ」
「?」
「陽香と付き合い出したそうで。おめでとうございます」
「え? あ、ああ……ありがとう。そっちこそ、後輩の女の子とうまくいったみたいで、おめでとう」
「ああ……ハイ、どうも」
佐久間は疲れ切った瞳で俺をじっと見つめると、迷ったようにアスファルトに視線を落とした。
「……坂田さん」
「うん?」
「過去を、消しゴムとか修正液で消したい、って思うこと、ありませんか」
足元を見つめる視線は、疲れ切っているだけでなく、どこか虚ろだ。
頭痛持ちでよく保健室にやってきていたとはいえ、佐久間収という男は実に明るくて、快活な男だ。
斉木みたいなマイロードまっしぐらな人間の扱い方も上手だし、有能という文字がそのまま生きて歩いているような。
.
最初のコメントを投稿しよう!