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溺れるみたいに口唇を半分だけ開かせる彼女を感じながら、そこに舌を挿し込みたくなった。
けど、今のところ、それはしない。
キスなんて口唇と口唇が触れた瞬間、それを動かして自然と舌が彷徨い出すものだという認識があった。
けど、それはいわゆる経験者の俺側の勝手な常識で。
初めてこの娘とキスをしたとき、衝動のまま舌で口唇を割って挿れてしまったことは、今でも鮮明に思い出せる。
あのとき彼女はひどく動揺した。
いきなり口唇を塞がれたことも……だったんだろうけど、あの暴れ方は挿入ってきた舌に驚いたから──そうに違いなかった。
そういうことをまったく知らない彼女。
わけが判らないうちに、あれよあれよと全部詰めてしまうのも悪くはないだろうけど、俺は心底性格が悪いんだろうな、と自分で思った。
俺のやることなすことすべてに動揺して、狼狽して──そういう仕草のひとつひとつをじっくり観察したい……という欲求は、彼女にとっては迷惑極まりないだろうから。
俺の胸のうちを知れば、いっそ一思いに全部済ませてください、とか言いかねない。
だから、ときどきにぶい男のふりをして、神経質なふりをして。じっくりと、見せてもらうことにした。
織部陽香という女の子の、その変化を。
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