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「“坂田さん”だって同じだよ。俺、そんなの嫌だし」
「で、でも……」
「だいたいね」
ふ、と。彼女の漏らした息が、俺の鼻先にかかる。
「佐久間のことは収って呼んでるのに。不公平だとは思わないの?」
言うだけ言って──もう一度、半開きのその口唇にキスを落とした。
「さ、坂田さ……んん」
くぐもって、鼻から抜けていったその声は、想像していたよりずっと甘い声だった。
「ちゃんと呼べたら、やめてあげるから」
口唇と口唇の間にわずかな隙間を作って、彼女の両頬を包みながら、その目を真っすぐに見つめる。
自分で自由に顔を動かせなくなっている彼女は、小さく身じろぎをした。
その大きな瞳が、うるん……と大きく揺れる。
……ドキドキしてるのは、実はこっちの方だったりして。
自分のしていることや煽っていることの意味をしっかり理解しているだけに、まだ進めてもいいだろうか、もう駄目だろうか……なんて妙な罪悪感も沸いてくる。
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