氷山の一角、というもの

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  「そうなんです。ホントに、つい何日か前にそんな話聞いたばっかりですよ。大した付き合いじゃないって、収もそう言ってて……」 「そっか」  爪を噛む、というより歯と爪を弾き合うような、仁志くんの仕草。  全然嫌味にならないそれをじっと見つめながら、あたしは仁志くんが何か言うのをただ待った。 「あ」 「ん?」  待っていたけど、ふと妙なことを思い出した。ちいちゃんと付き合いだした、と収から聞いたとき。 『よかったじゃない、おめでとう』 『ありがとう』 『……? で、なんでそんな嬉しくなさそうなの?』 『俺の……元彼女? に会ったから』  あのとき、つい自分のことでいっぱいいっぱいで、すっかり聞き流していたけど……。 「……そういえば、ちいちゃんと付き合いだしたっていう次の日、収、言ってました。元彼女に会った、って」 「何か、陽香に言おうとしてた?」  仁志くんのその質問には、かぶりを振った。 「ちいちゃんと付き合いだした、って話のインパクトの方が強くて……でも、元彼女の話をしたときだけ、すごく嫌そうで」 「そっか……まあ、普通、幼なじみの……ましてや女の子に、そんなこと言うわけないか」 「……?」 .
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