氷山の一角、というもの

11/27
前へ
/27ページ
次へ
   仁志くんは、ポケットから煙草を取り出し、ひょいとそれを咥える。 「仁志くん、煙草吸うの?」 「……うん、ごめん。ちょっとだけ……火は点けないよ。ここでは」  なぜか謝りながら、仁志くんは肩を竦める。  その態度で普段から充分肩身の狭い思いをしているんだろうな、ということが窺えた。  大嫌いな人は、吸えない場所なのに煙草を出すこと自体嫌悪するんだろうけど……。  兄貴を見ているうちに、とっくに“男の人と煙草とお酒はセット”だなんて古い価値観が染み付いてしまっているあたしには、何てことなかった。  すると、仁志くんが少し緊張したように、軽く咳払いした。 「佐久間ね、脅されてるんだ。たぶんその、元彼女に」 「え……?」 「まだ好きだ好きだって言ってくるんだって。別れてからもう、1年以上も経つのに」 「え、その間、ずっと付きまとわれてた、ってことですか……?」  あたしの質問に、仁志くんは「そうみたいだよ」と答えた。 「脅されてた……って、なんで、そんなこと……」 「昨日、佐久間……自分の携帯、自分で壊しちゃっててさ。そこに、色々送られてきてたらしくて」 「携帯に……? メール?」  仁志くんはうん、と小さく頷いて──しばらく考えるそぶりを見せる。 .
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

200人が本棚に入れています
本棚に追加