200人が本棚に入れています
本棚に追加
仁志くんは、ポケットから煙草を取り出し、ひょいとそれを咥える。
「仁志くん、煙草吸うの?」
「……うん、ごめん。ちょっとだけ……火は点けないよ。ここでは」
なぜか謝りながら、仁志くんは肩を竦める。
その態度で普段から充分肩身の狭い思いをしているんだろうな、ということが窺えた。
大嫌いな人は、吸えない場所なのに煙草を出すこと自体嫌悪するんだろうけど……。
兄貴を見ているうちに、とっくに“男の人と煙草とお酒はセット”だなんて古い価値観が染み付いてしまっているあたしには、何てことなかった。
すると、仁志くんが少し緊張したように、軽く咳払いした。
「佐久間ね、脅されてるんだ。たぶんその、元彼女に」
「え……?」
「まだ好きだ好きだって言ってくるんだって。別れてからもう、1年以上も経つのに」
「え、その間、ずっと付きまとわれてた、ってことですか……?」
あたしの質問に、仁志くんは「そうみたいだよ」と答えた。
「脅されてた……って、なんで、そんなこと……」
「昨日、佐久間……自分の携帯、自分で壊しちゃっててさ。そこに、色々送られてきてたらしくて」
「携帯に……? メール?」
仁志くんはうん、と小さく頷いて──しばらく考えるそぶりを見せる。
.
最初のコメントを投稿しよう!