氷山の一角、というもの

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  「……壊す前に、アドレス変えちゃったのかな……」 「うん?」 「収のメアド、使えなくなっちゃってるんです。それで、ちいちゃんとあたし……」 「ああ……なるほど」  仁志くんは煙草を咥えたまま、軽く吸った。  それだけでも味や香りがするんだろうか、仁志くんは一瞬だけ目を細める。 「……何が、送られてきてたんだろ。仁志くん……聞いてないですか?」  仁志くんはちら……とあたしを見ると、そのまま目を伏せてかぶりを振った。 「知らない、なんて言ったら嘘になるから、それは言わないけど……佐久間の名誉の為に、言えない」 「知ってるんだ……」  あたしがしゅんとして俯くと、仁志くんは困ったように煙草のフィルターを噛む。  ふたつの意味で、へこんでしまった。  ひとつはもちろん、結局仁志くんからは具体的なことを何も聞けなさそうなこと。  もうひとつは、人には言えないような何かが収にはある──あるいはあったんだ、ってこと。  その両方で、すごく複雑な気持ちになった。  すると、迷ったように視線を彷徨わせ、仁志くんは咥えている煙草を手に取る。 .
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