200人が本棚に入れています
本棚に追加
「……佐久間の為っていうより、俺が陽香の耳に入れたくないんだよ」
え、と顔を上げると、仁志くんの真剣な瞳とぶつかった。
相変わらず色の薄い、透き通った綺麗な目。思わずゴクン、と小さく息を飲んでしまった。
「ずっと昔から知ってる友達に、自分の知らない一面があった──なんて。それだけでもけっこうショックなのに、その知らない一面が、他人の俺でも驚くようなこと、だったから」
「でも……そこまで言っちゃうなら、言って欲しい、です」
「……駄目。きっと佐久間も、陽香には知られたくないと思うし」
「じゃあ、昨日……」
「うん?」
「昨日、収はどんな感じだったんです? 今、ちゃんと家にいると思います? 何か落ち込んで、学校休んでるだけだと思います?」
仁志くんに訊いて、どうなるわけでもない。それは何となく判っていた。
だって、当の収はここにはいないんだもの。
「昨日、ひどく落ち込んでたから心配になって……家まで送ったよ。それから出かけてないなら、家にいるんじゃないかな」
「収を? 家まで?」
うん、と何でもないことのように頷いて、仁志くんはまた煙草のフィルターを噛んだ。
.
最初のコメントを投稿しよう!