氷山の一角、というもの

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  「……佐久間の為っていうより、俺が陽香の耳に入れたくないんだよ」  え、と顔を上げると、仁志くんの真剣な瞳とぶつかった。  相変わらず色の薄い、透き通った綺麗な目。思わずゴクン、と小さく息を飲んでしまった。 「ずっと昔から知ってる友達に、自分の知らない一面があった──なんて。それだけでもけっこうショックなのに、その知らない一面が、他人の俺でも驚くようなこと、だったから」 「でも……そこまで言っちゃうなら、言って欲しい、です」 「……駄目。きっと佐久間も、陽香には知られたくないと思うし」 「じゃあ、昨日……」 「うん?」 「昨日、収はどんな感じだったんです? 今、ちゃんと家にいると思います? 何か落ち込んで、学校休んでるだけだと思います?」  仁志くんに訊いて、どうなるわけでもない。それは何となく判っていた。  だって、当の収はここにはいないんだもの。 「昨日、ひどく落ち込んでたから心配になって……家まで送ったよ。それから出かけてないなら、家にいるんじゃないかな」 「収を? 家まで?」  うん、と何でもないことのように頷いて、仁志くんはまた煙草のフィルターを噛んだ。 .
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