氷山の一角、というもの

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   すると、仁志くんの不機嫌に拍車がかかって、収の頭をぽかりと殴った。 「誰が小猿なの。言いたいことは判るけど、それを言う相手と言葉に気をつけるんだね」 「す、すみません、ごめんなさい……とにかく、陽香をそういうふうに見たことはないです、ハイ」  何だか涙目になってしまった収は、自分の勉強机の椅子を仁志くんに差し出す。  黙ってそこに腰を下ろした仁志くんを、収はじっと見つめた。 「それで、あの……坂田さん、2人には……」 「俺からは言ってないよ。何も」  収はホッとしたように息をつくと、へなへなとベッドに腰掛ける。  のろりと顔を上げて、収は力なく言った。 「ごめん、陽香、ちいちゃん。悪いけど、その辺に座って……」  その辺、と言いながら収の目は部屋の──あたしの足元──隅に立てて並べるように置いてあるクッションを見ている。  勝手に使えってことだな、と思いながら、あたしはそれをひとつ取ってちいちゃんに渡した。  女2人で、クッションを敷いて座る。  必然的にそれぞれ椅子とベッドに腰掛けている男2人を見上げることになる。  ふと見ると、ちいちゃんは視線のやり場に困ったように俯いていた。  ハッと気付いて、あたしは収を見上げる。 .
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