氷山の一角、というもの

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   ちいちゃんの基本的な女の子スキルの高さに感服していると、仁志くんの膝が肩に当たった。  それだけでビクッとしてしまう。  恐る恐る仁志くんを見上げるように振り返ると、彼はあたしのことなど見ていなかった。  ……意識してるの、あたしだけか……。  がっかりと羞恥心がないまぜになって、溜め息が漏れた。何だか、悔しい。 「佐久間」  仁志くんのかたちのいい口唇がふいに動いて、あたしは思わずそこから視線をそらした。  いけない、いけない。  仁志くんをずっと見つめていたこともそうだけど──好きなものや気に入っているものを、我を忘れてじっと見つめるクセは、いいかげん自覚している。  仁志くんそのものもだけれど、ここ数日というもの、彼の口唇に視線が吸い寄せられて困ってしまう。  仁志くんは、あたしのそんな困った胸のうちなど知る由もなく、真っすぐに収を見つめた。 「……事情が説明できて何よりだけど、メールの送り主のこと……どうするつもりなの」 「……あ……」  仁志くんにそう問われて、収は浮かない顔になる。 .
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