氷山の一角、というもの

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  「……なんで、仁志くんが収のこと……ちょっと待っててくれる?」  肩を竦めてちいちゃんにそう言うと、彼女はコクン、と小さく頷いた。  あまりちいちゃんを待たせないようにしよう……と思いつつ、廊下に出ながら仁志くんに電話をかける。  すると、ワンコールのうちに仁志くんは出てくれた。 「あ、もしもし……」 『今、平気?』 「はい」 『よかった。あのね、佐久間……来てるかな』 「それが……来てないんですよ」  でもどうして仁志くんが……と訊ねる前に、仁志くんは少し沈んだ声で話を続ける。 『昨夜ね、佐久間に会ったんだよ。俺』 「え!?」  慌ててちいちゃんを振り返ると、彼女は不安そうにあたしをじっと見ていた。  思わず電話の通話スピーカーを押さえるのも忘れて、そのままちいちゃんに「昨日、仁志くんが収に会ったって」と言ってしまった。 『そばに、誰かいる?』 「あ、ごめんなさい。ちいちゃんが心配して、来てるんです。収の……彼女の」  すると、電波の向こうで仁志くんが戸惑ったのが判った。  何かまずいことを言っただろうか、と不安になりかけたとき、仁志くんは抑えた声で、躊躇いがちに言葉を続ける。 .
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