氷山の一角、というもの

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  『悪いけど、その娘の耳には入れない方がいい話しかできないんだけど……』 「……? どういうこと、ですか……?」  思わず釣られて、あたしもちいちゃんには聞こえないようにしてしまう。  仁志くんと収──繋がるようであまり繋がらない。  そもそも、この状況がよく判らなくて、あたしの頭にクエスチョンマークが乱舞する。 『陽香』 「え?」 『受験生にこんなこと言いたくないんだけど、午後の授業サボって保健室に来られる?』 「え……」  それは構わないんですけど、と呟くように答えてから、背後のちいちゃんが気になった。  収に会いたがってるだろうし、放課後やつの家に行ってみようか、という話も宙ぶらりんのままだ。 『無理なら、放課後まで待つけど』 「あ、いえ……行きます、あたしは大丈夫」 『判った。じゃあその娘には、放課後まで待ってもらって』  はい……と言って、電話を切った。  不安そうに揺れるちいちゃんの瞳を見ると、胸が疼く。  逆だったら、と考えると……ちいちゃんの不安が判るような気がするからだ。  毎日学校で会って、毎晩携帯で繋がって、それがずっと続いていて──ある日突然そのどれかひとつでも欠けたら、不安になって当たり前だ。 .
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