氷山の一角、というもの

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  「こっち、おいで。一応、具合悪くなって来たことになってるんだから」  仁志くんはゆっくりと立ち上がると、カーテンで仕切られたベッドの方へ向かいながら、あたしに手招きをした。  ……そっか、保健室にはベッドがあるんだった。  もう通い始めて3年目だというのに、あたしはこの部屋にほとんどお世話になったことがない。  ベッドの周りのカーテンは天井近くから吊るされている。  ちゃんとカーテンを引かないと、ベッドのあるスペースを覗けないようになっていた。  ちょっと変な気持ちになりながら仁志くんに続くと、彼はクリーム色のひらひらしたカーテンをシャッと引いた。  窓側は丸見えだけど、引き戸の方からはもう完璧に死角になっている。  仁志くんが腰を下ろすと、ベッドがギシリと軋んだ音を立てた。 「座りなよ」 「え、あ、はい」  そろっと腰を下ろすと、想像よりずっとやわらかいベッドにお尻が心地よく沈む。  それに軽く驚いたあたしの顔を見ると、仁志くんはクスッと笑った。 .
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