氷山の一角、というもの

9/27
前へ
/27ページ
次へ
  「やわらかいだろ、ここの。額田先生がこれ洗濯してるんだよ。あんな顔して」 「……額田先生が?」 「うん。まあさすがに、誰か使ったときだけみたいだけど」 「……あ、どういうことです? 昨日収に会った、って……」  あたしが切り出すと、仁志くんはきゅっと軽く眉根を寄せた。 「……陽香、佐久間から聞いてないの?」 「何を……?」 「本当に? 一言も?」 「さ、最近だと、ちいちゃんと付き合い始めたことくらいしか……」  なんだか詰問するような仁志くんの訊き方に、思わず上半身を引いてしまう。  あたしがそうしたことでハッとした顔をすると、仁志くんは少しだけ俯いて、親指の爪を軽く噛んだ。 「……佐久間ね、昔付き合ってた女の子にずっとちょっかい出されてたんだよ。けっこう、悪い感じで」 「え……」  寝耳に、水、という感じだった。 「全然、知らなかった……」 「ついさっき、額田先生に聞いたんだけど。陽香、佐久間にそういう女の子がいたことすら知らなかった、って?」  よく判らない欠落感と、寂しい、っていう感情が同時に湧いてきて、思わず下唇を噛みしめる。 .
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

200人が本棚に入れています
本棚に追加