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「ごめん。言ってるだけだから気にしないで」
さすがに自分のどうしようもなく子どもっぽい部分と対峙して、我に返らないわけがなかった。
笑い混じりにそう言うと、陽香は安堵したように息をつく。
『もう……仁志くん』
「ごめんって」
どうにかこの状況をサラッと流せそうだな、なんて思いながら、シンクの横スペースに置いてある灰皿に灰を落とした。ついでに、換気扇のスイッチも入れる。
『ちょっとは、手加減して……』
下の名前で呼ぶように言ったときから、陽香の話し言葉から敬語がちょいちょい抜けるようになっている気がする。
それは、俺の名前を呼んだぶんだけ、そうなるんだろうか。
それとも……キスしたぶんだけ、だろうか。
はかりかねるけれど、恋愛に慣れていない彼女を通して、自分も初恋をやり直しているような気分になる。
それってすごく贅沢なことだな。
後悔らしい後悔は自分の人生には見当たらないけど、自分は何となく薄汚れてしまっているような気がしていた。
深く関わってきた誰かのせいじゃない。
自分が、“こんなものか”と諦めたように投げ出したぶんだけ、人はかけがえのないものを手放していくような気がする。
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