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何だか悔しそうだけど──その理由までは、俺には判らないよ?
そう言ってあげてもよかったけど、あえて手の内を晒すのは趣味じゃない。
たとえそれが、敵でも味方でも、そのどちらでもない存在でも。
俺のこういうところが彼女の目にはある種トリックめいて映るんだろうか。
……でも、男ってこういうもんなんだよね。知りたい陽香には悪いけど。
「俺からすれば、びっくりするようなところに転がり込んできてくれるのが、陽香なんだけどな」
『え?』
「こうなったらいいのにな、って思いながら、あえてそういうことは言わないようにしてる。なるべく、良識と常識に基づいたことを言ったりしたりしてるんだよ」
『……』
「あ、信じてないな」
『……うん……』
「まあいいや。続けるね」
不満そうな陽香を構わずスルーしてそう言うと、ふ、と彼女が小さく笑いをかみ殺したのが判った。
あえてそれには気付かないふりをする。
「でもね、思わぬところで陽香が照れたり、慌てたりするから」
『ええ?』
「ああ、だったらもっと慌てさせたいなって、つい。だから、陽香のせいだよね」
『えええ……』
上ずる陽香の声に、彼女がすでに平常心を失いつつあることが判った。
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