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「ホラ、今とか……」
『えっ、やだ、仁志くんのこと、本気で判んない』
いわゆる否定ではないその言い方に、ふ、と俺の方も笑いが漏れた。
『笑わないでー』
「じゃあ、特別。今俺が何考えたか、教えてあげる」
『うんっ』
急に元気な声になった陽香に苦笑しながら、俺は音を立てないようにゆっくりと一度、深呼吸をする。
期待に満ちた陽香の気配。
纏わりつき始めた羞恥心にはフタをして、俺はなるべく感情が篭らないように口を開いた。
「今、直接陽香と話してたら、目の前にあるベッドに押し倒して、そこでゆっくり教えてあげるのにな、って思ったよ。ゆっくり服を脱がせて、色々しながら、色々」
一気に言ってから、湿度と温度が高まっているような錯覚を起こす自分の息を、やっぱり音を立てないようにそーっと吐き出した。
ガチャッ ツー ツー ツー
「……!?」
目を見開いて、携帯の液晶を見た。
通話時間が表示されていて──切られたことは明らかだった。
「……やっぱり、この手の話はまだ早いか……」
ひとりごちてはみたものの、自分への失望が一気に押し寄せてきた。
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