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何かと俺の気持ちを探りたがる陽香をうまくごまかして、彼女を家の近くまで送った。
次の定期、実家の住所で買おうか……。
苦になるほどの電車賃でもないけど、いちいち切符を買うのがめんどくさくて、夜道を歩きながらそんなことを考えた。
別れる直前撫でた陽香の髪の感触の残る手をじっと見ながら、夕方前に訪ねた佐久間の家の方を見やる。
もう一度寄った方がいいかな、と考えて──佐久間の母親の明るさを思い出した途端、やめよう、と思った。
中年女性特有のぶっ飛んだ明るさや無神経さには耐性ができているつもりだったけど……あれは、ない。
俺を陽香の彼氏だ、と認識した上で、「収は陽香を好きだった」なんて言えるもんだろうか。
実際は何も考えていないんだろうけど、ああいう地雷を踏んで自分は被弾しない、というのはどういう神経なんだろう。
たとえ根も葉もない憶測だったとしても、あえて言うのは嫌がらせとしか思えない。
その割には帰るとき「また来てね」なんて語尾にハートマークがつくような声で言うもんだから、理解不能だ。
まあ、気にする俺の方がどうかしてるんだろうけど。
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