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『でもね、顔だけなら……とか言ってるうちに、だんだん何がよくて何がだめか、判らなくなってきて……』
『エスカレートしてっちゃったんだ』
『うん。別れ話したとき消したつもりだったんだけど……あたし、画像の整理って細かくはやらなくて。撮った写真、うっかり全部一括バックアップしちゃってたんだ。そういう写真混ざってるの、忘れてて』
あとからそれに気付いたけど、収と付き合ってたときの楽しいことをたくさん思い出してしまって、消すことができなかった……と山崎さんは言った。
『おーちゃんを困らせようと思って、残してたわけじゃないんだけど』
寂しそうにそう言って溜め息をついた山崎さんに写真をバラす気などない、ということが窺えた。
……だけど、山崎さんが思い切って写真を削除できたとして。
収と彼女の間にあったことが、消えるわけじゃない。
そういうのは、どうするものなんだろう。
過去に付き合った人などいないあたしには、想像がつかなかった。
ましてや、この先仁志くんとさよならして、違う人と付き合ったり──するんだろうか。
……そんなの、考えられない。
仁志くん以外の人なんて、絶対嫌だ。
そんなふうに、つい自分自身と重ねて、考え込んでしまっていた。
鏡の中の自分がいつのまにか泣きそうになっていて、あたしは慌ててかぶりを振った。
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