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「今カノが見せろって言うなら、見せてあげるわよ」
ちいちゃんに身体を押さえつけられながらも、山崎さんは何だか余裕そうで。
山崎さんが、ふん、とあたしから視線をそらしたその仕草で、判ってしまった。
この状況そのものを予測していたわけではないだろうけど、山崎さんはこうなることが判ってたんだ……。
たぶん、山崎さんは収の気持ちに気付きもしないで呑気に過ごしているあたしに腹を立てていたんだろう。
おばかさんを装って、口を滑らせたふりをして、収のことを全部あたしに告げて──そしてそれをちいちゃんにも見せ付けて。
収と繋がろうとしていたわけじゃないんだ。
山崎さんは始めから、あたしとちいちゃんを傷付けたかっただけなんだ。
無邪気に、穏やかに笑ってたのは……全部嘘だったのか。ぞっとした。
あたしの様子など関係ないというように、目の前で状況は進んでいく。
さっきの山崎さんの冷たい瞳と、彼女はあたしが思っていたような人じゃなかった、という恐怖が足元に絡み付いて、もう声が出なかった。
「待って。SDカード、カバンの中だから」
「早くしてよ」
ちいちゃんは、山崎さんから手を離す。
山崎さんはちいちゃんを横目にふっと笑いを漏らすと、棚に置きっぱなしになっている携帯を開いた。
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