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肩の辺りで、陽香の手にぐっと力が篭る。
そこに包帯があるのを見て、俺はさっきのように口唇を這わせた。
彷徨いたがるその手を取ると、涙で濡れた陽香の瞳を覗き込む。
「俺、ここにちゃんといるから──大丈夫だから、陽香」
はっ、と。
納得したように、陽香の目から抗うための尖った光が失われた。
何ともない方の手で、陽香は俺の頭をもう一度抱きしめる。
そのまま、俺のうなじに自分で顔をうずめてきた。
……意地でも、そこまでやるよ。そんな可愛いことするなら。
拒否されないのをいいことに繰り返して──最後に、陽香に悲鳴みたいな声を上げさせた瞬間、溜め息が漏れた。
陽香の香りにあてられないように保つのが精一杯で、その溜め息が勝者のものか敗者のものか、自分で仕掛けたくせにさっぱり判らなかった。
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