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ミラーに映る自分の姿を
ぼんやりと見つめながら
もう一度自分に言い聞かせる。
心の奥底に秘めた思いを
この鎧のような服で包み隠し
聖と逢瀬を重ねるしかないのだと。
やがて彼の運転するレクサスが
私の隣に滑り込んで来て
ウインドウ越しに目配せで
こっちにおいでと導かれた。
無理やりのせた笑みを纏って
私は彼の車に移動する。
「おはよう紗枝」
「おはよう」
微笑み合う私と聖の間に
流れる空気は何も
変わっていないのに…
お互いが抱える現実は
決して寄り添えない壁に
遮られている。
それでも私はこうして
背徳の逢瀬を彼と重ねるのだ。
ただ…
彼に生きる希望を与えるために。
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