始まり

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私が、歳の頃幾つぐらいだっただろうか? 外を見れば雪が散らつき始め、清掃時間が始まった教室の中では、冷たく茶化色に濁った水の入った鉄(かね)のバケツに己の手を躊躇する事無く入れ、是又埃にまみれた雑巾を濯ぎ、固く絞ろうとするのである。 しかし私はこの時、左手の薬指と小指に効きもしない冷湿布を貼り、是みよがしに包帯を不器用に巻き付け、痛みを堪えながら、時に友人に茶化されては『あっち行けや!』と、吠えるのだった。 痛みは和らぐ事無く疼き、寒い筈の教室の中で激しく息を切らしているのは私だけであり、教壇に立つ女性教諭は、そんな私の姿を時折窺いながら授業を進めてゆくのである。 『大丈夫?』 『……はい。』 そう返事をするだけで私はその場で力尽き、意識を失うのだった。 .
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