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すると、悠哉が私から視線を外し、顔を下げた。
…悠哉?
「…だが、」
そう続けながら顔を上げ、再び私の瞳を捕らえた。
「なぜ、すぐに返事をしていない?」
今度の表情は、はっきり気持ちが伝わってきた。…悠哉、怒ってる。
「俺と、高野と、…迷ってるのか?」
違う!
違う違う違う違う!
「私、迷ってなんかいません!すぐに返事しようとしたんです!でもあの時…」
ちゃんと説明しようとしたら、悠哉が私の手首をスッと緩め、離した。
かと思うと、後ろへ振り返り、私に背を向けた。
「悪いが、今の俺は冷静に話しを聞いてやれるほど、余裕がない。……仕事に戻れ」
やだ!ちょっと待って!ちゃんと誤解を解かなくちゃ。
「悠哉、私…」
「聞こえなかったか?……戻るんだ」
突き放されたようなその言葉に、自分の手が微かに震えた。
ギュッと下唇を噛みしめながら、声をかけたいのを必死に堪えた。
さっきまで悠哉に握られていた手首を、もう片方の手で押さえながら、私はそっと部屋を後にした。
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