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何も話す気になれない俺は、片桐を睨み付けながらしばらく黙っていた。
「…噂が原因ですか?…特に、気にすることでもないと思いますが…」
片桐が不意に口にしたその言葉に、俺は目を細めた。
おいおい…まだ、俺の知らないことでもあるのか?
「噂ってなんだ?」
首を傾げながら聞き返すと、片桐が俺から一瞬視線を反らした。
今度は、片桐が黙ったまま俺を見ている。
「誤魔化そうと考えるなよ。…言え」
すると、片桐は軽くため息つきながら話し始めた。
「たいした話しではありません。ただ、相沢さんと高野くんの仲が良いと、総務課の方たちが話していただけです」
「…何でそんな話しが広まる?…きっかけがあるだろ?」
「…朝、2人が一緒に通勤してきたそうです。ただ一緒になっただけだと思いますが」
「…高野、たしか通勤は車だろ?…車で一緒に来たのか?」
「社長、事実が知りたいなら、相沢さんと話すべきかと…」
…今は、無理だ。
そう思いながらため息つき、背もたれに寄りかかり、天井を見つめた。
しばらく考え込み、右手の甲で目を覆った。
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