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「…なに笑ってんの」
わたしの視線に気づいて、
田辺くんは訝しげに訊いた。
「ううん、なんでも」
彼を『恋パラ』担当に抜擢した春山先生は、
本当に人を見る目があるな、と改めて思う。
田辺くんが初めて独り立ちした
『恋パラ』の放送を聞いた時、
その場にいた放送部員みんなが驚いた。
部室で大きなお弁当を食べている
イメージしかなかった彼が、
切ない恋の相談に対し、的確で
ちょっぴりロマンチックな
アドバイスや応援メッセージを
口にする姿に、部室で大きな拍手が
巻き起こった時の事は
今でも忘れられない。
奈良崎部長は、
『田辺が放送部に来てくれて
ラッキーだった』
と言っていたけれど、
それは多分、違う。
春山先生はきっと、
全て分かった上で
田辺くんをスカウトしたのだと思う。
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