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ココは静かだ・・・どこなんだろう。潮騒が聞こえる。遠くにだが海の匂いが運ばれてくる。また少年がひょっこり顔を出した。
「おいで、怖くないから」
まだ警戒しているようだ、戸袋の所から顔だけ出している。
やれやれ、なかなか信用してもらえそうにない。
本当に靫様のようだ・・・よく似ている。まだあの方を思い出すと体が震える・・・。
私の腕の中で吐息を洩らし、潤んだ緋色の眼で私を誘う・・・あの妖艶なお方をこの少年に重ねるなど・・・。
でも歳も2歳しか変わらない。華奢な身体もそっくりだ。
他人の彼にそのような不埒な妄想をするのは申し訳ない気持ちになった。
頭を抱えて妄想を追いやろうと首を振る。しゃがみ込んでいると少年が近づいてきた。
「どっか痛いの?」
「いや」
「なんで泣いてるの?」
「大切な人を失ってしまったから」
「そうなの・・・かわいそう」
少年は思いがけず私の頭を宥めるように撫でた。
「君・・・優斗くんだったよね。 その人が君にそっくりなんだ。君を見ると思い出してしまってね」
「そう・・・」
あまり感情を表に出さない。話は抑揚が無くロボットが喋っているようだ。
でも可哀想とか感情を云う事もあるのかと驚いた。
触れようと手を伸ばすとふいっと避けてまた庭の奥に消えていった。
「嫌われたかな?」
ちょっと淋しい気持ちになった。
少しはなついてくれると嬉しいけど、獣だし、人間に警戒心もあるだろう。
「優斗さまは人みしりで・・・こんなに近距離で他の方と話すのは貴方だけですよ」
お粥を持ってきてくれた七夜のばあやが教えてくれた。
みれば見るほどあの方に見える。
重ねてみてはあの子に失礼だと思いつつ、緋色の眼をしたあの方の面影を消し去ることはできない。
「みつさん、ここはどこですか?微かに潮の香りがしますが・・・」
「葉山ですよ」
あの・・・別荘地の。高台にあって海は見えないがなるほど富士は大きく見える。
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