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「……ちがっ……」
「悪い子だね、椎名」
わたしがさらに暴れると、
先生が手を放した。
反動で椅子ごとよろける。
先生が素早く立ち上がって、
わたしの身体を受け止めた。
「危ないよ」
「……放して……っ」
腕を振り解き、
部屋の隅まで逃げる。
こちらに向かって
先生が足を踏み出そうとした瞬間、
わたしは叫んだ。
「春山先生だって!」
先生がぴたりと足を止める。
「先生だって、――峰村先生と、
キスしてたじゃないっ!!」
目を見開いた先生の顔が、
徐々に滲み始める。
わたしの目から、ぽろり、と
大粒の涙が落ちた。
――あの日。
まだ夏の名残が残る木曜日。
春山先生とフジコ先生は、
キスをしていた。
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