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そこにもやはり、塔の冠を戴く高台が、空をただ独り遮っていた。その冠の中心部から、ひときわ高い塔が一本伸びている。さすがにここからは遠くて見えないが、あの屋上には大きな旗が掲げられているはずだ。
リュウトは目を閉じた。そう、あの時のように、こうして勢いよくはためいているはずだ。
だがその旗は、もはやあの時と同じ色をしていない―
リュウトは目を開けた。大儀そうに体を起こす。少し歩いてみるか、彼は思った。こんなところで塞いでいても仕方がない。これからしばらく過ごす街を、ちょっと見ておくのもいいだろう。
ロビーに降りると、カウンター係は若い女性に代わっていた。彼女はリュウトの姿を見ると、驚いた顔をして慌てて頭を下げた。
ホテルを出てほんの数歩足を運んだ時だった。リュウトはいきなり後ろから声をかけられた。
「殿下…」
しまった、と思った時はもう遅かった。反射的に彼は振り向いていた。
そこにはみすぼらしいなりをした小さな老人が、杖にすがりつくように立っていた。皺くちゃに寄せ集められた顔の中で、目だけが大きく剥き出しになった。
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