遠くまで見える場所

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君は普通の人間になるんだ、そう「評議長」と呼ばれた男は言った。 君が普通の人間として生きる姿を見せることで、人々はこの都に特権階級というものがなくなったと知るだろう、それが君のこれからの役割だ― リュウトは目を覚ました。襲ってくる軽い迷子の感覚。意識が戻るにつれ、彼は自分の新たな居場所を思い出した。 寝間着を脱ぎ、洗面所で顔を洗った。ふとリュウトの目に、右腕についた傷痕がとまった。 数年前、街を歩いていた彼は、ナイフを持った暴漢に突然襲われた。とっさに自分をかばって出した右腕に刃が走った。 気づくと暴漢は、一人の男に組伏せられていた。別の男がリュウトの肩を抱き、彼を車に乗せると病院へと連れていった。暴漢がその後どうなったか、彼はついに知ることはなかった。 昨日の老人のことを彼は思い出した。 身繕いをして、服を着替えるとリュウトはホテルを出た。朝食はとらないことにしている。 彼が今日から配属される役所は、ホテルから歩いてすぐのところにあった。通用口から事務室に入ると、既にそこに漂っていた緊張感が、ぴんと張りつめるのを彼は感じた。
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