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 銀座のクラブ、「はなの」では内田が酩酊していた。 「これは何てぇ、名前?」 「『レインボー』よ。」 「へえ……、綺麗らなあ。」  リキュールの微妙な比重の違いで、綺麗な虹色のカクテルに内田は感嘆した。  一方、高津は山崎17年のロックを口にしている。 「高津しゃん、それで何の用なんれすか?」 「……ベロベロだな、おい。」 「らって、好きなもん飲めって言うから。」  あさ美に乗せられて、さっきから度数の強めのカクテルを内田は飲まされている。 「用は無い。単に飲みにつき合わせただけだ。」 「なーんら! 俺、てっきりお偉いさんが来るのかと思ってた!」  あさ美はくすくす笑いながら、「今度は青い珊瑚礁でも飲む?」と訊ねる。 「……れも、そろそろお金にゃい。」 「あら、高津さんが払ってくれるわよ。」 「本当?」  真っ赤に染まった内田は子犬みたいにあさ美に甘える。 「……好きにしろ。ただし、潰れても俺は知らないからな。」  内田だけでなく、隣に座っているあさ美まで「わーい」と喜ぶ。 「あさ美ちゃん、飼うならもっと良いのを紹介するぞ?」 「んーん、彼がいいの。」 「そう……。」  カクテルに夢中な内田の傍らであさ美はくすくすと笑う。 「高津さんが鞍馬さん以外の人、飲むためだけに連れてくるの、初めてね。」 「鞍馬は勝手についてくるんだ。連れてきてるわけじゃない。」 「そうなの? じゃあ、高津さんの初めての試みなのね、内田さんを呼んだのって。」 「ああ……。」 「どうして、内田さんを呼んだの?」  内田は眠くなったのか、あさ美の肩に凭れる。  あさ美はボーイに毛布を持ってくるように声をかけると、内田に巻き付けるように毛布を掛けた。 「……鞍馬より、かなり安上がりだからな。」  高津は口角を少し上げると、あさ美に答えた。 「確かに、鞍馬さんと飲む時はボトル三本は空いちゃうもんね。」 「あいつはうわばみだから、ボトルキープの意味が無い。」  内田はくうくうと寝息を立て始める。  高津がくいっとウイスキーの残りを飲み干した。 「次はどうする?」 「同じのの、水割りでいい。」 「畏まりました。」  高津からグラスを受け取ると、手慣れた様子であさ美は水割りを作った。
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