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あさ美が水割りを作っていると、友禅染の着物を着たママが挨拶に来た。
「高津さん、いらっしゃい。」
「お久しぶり、ママ。」
「先週ぶり、ね。」
「ああ。」
「お連れの方は眠っちゃったの?」
「そうらしいな。」
高津がいつになく楽しげに話すから、ママはきょとんとした。
「どうかした?」
「……いえ。お連れの方はお友達か何か?」
高津が「いいや」と笑うから、ママは怪訝な表情へと変わる。
あさ美は笑いを堪えていた。
「あら、違うの?」
「……強いて言うなら、『おもちゃ』だな。」
「まあ。」
あさ美が肩を震わせる。
内田は眉間に皺を寄せて小さく呻いた。
「ついでに、あさ美ちゃんのペットだ。」
「あさ美の?」
「だって、可愛いのよ、内田さんってば。」
高津とあさ美が愉しげに笑うから、ママは内田を見て「この二人に好まれるなんて、不憫な人ね」と苦笑する。
「それにしても、こうして、三人で飲んでると昔みたい。」
「そうか?」
「ええ。また、救急車は嫌よ?」
「腕前も上がったから、平気ッ!」
「それはどうかしら?」
ママが内田の赤い顔を見るとあさ美に視線を投げ掛けた。
淡いゴールドのドレスを着ているあさ美は、今でこそ「はなの」のナンバーワンだが、高津がここに通い始めた頃は水割りを作っても濃かったり薄かったりだった。
「……ああ、そんな事もあったね。あの時は30分だか、一時間だかでボトル一本を空けたんだっけ?」
「そうよ。飲むなら、味わってゆっくりとね。」
それを聞いていたあさ美は、急に内田が心配になって声を掛ける。
「内田さん?」
「んー……?」
内田は少し目を開けて、トロンとした瞳であさ美を見る。
「気持ち悪くない?」
「……へーき。」
再びウトウトとする内田に、あさ美は膝を貸す。
アルコールのせいでポカポカと温かい。
「あの日は、酔いが醒めて、目も覚ましたら、病院で点滴だったからな。」
「その節はごめんなさい。」
あさ美は肩を竦めた。
「あれからどれくらい経つかな……。」
「かれこれ、八年です。」
「そんなに経つ?」
「ええ。」
高津が目を細める。
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