52人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
訳ありの指名なのだが、それでもあさ美は嬉しかった。
「こんにちは、あさ美ちゃん。水割りは上手になった?」
「……自信無い。」
「無くても作ってみて。」
そして高津は相変わらず濃かったり、薄かったりする水割りを口にする。
「……高津さん?」
何杯目だったのか、二人とも覚えていない。
ただ、珍しく高津は急に酔いが回ると周りが真っ暗になるのを感じた。
後から聞けば、急性アルコール中毒を起こして倒れたらしい。
次に目が覚めた時には、ICUで機械だらけになっていた。
看護師に連れられて、あさ美とママが病室に入ってくる。
あさ美は泣き腫らして目が真っ赤だった。
「ごめんなさい。」
「いや、飲むペース、考えてなくて迷惑かけたね。」
付き添って入ってきたママにも、少しだが疲労の色が見える。
「意識が戻って良かったわ。ご家族にも連絡は入れたんだけど……。」
高津の上司に連絡して、実家に連絡したものの、阿久津が出たようで「死んだら連絡を寄越してくれ」と言われたらしかった。
「そう言う家なんですよ……。」
苦々しげに高津が答えると、ママは「死んでないけど、連絡をしてくるね」と病室を後にした。
「『死んだら連絡をくれ』だなんて……。」
手を伸ばして、あさ美の頬に流れる涙を拭う。
「――哀しい、ね?」
あさ美が早くに両親を亡くして天涯孤独の身の上なのを、ママから聞かされて知っていたから、高津は「うん」とも「いや」とも返さなかった。
自分には父も、継母も継妹もいる。
――たとえ、それが「帰れる場所」でないとしても。
高津はゆっくりと瞬きをした。
「生まれてくるところを誰も選べないよ。それは生まれてきた誰のせいでもない。」
何度となく自分に言い聞かせてきた言葉。
「……こうして生きてる事は、『間違い』なんかじゃない。」
それが高津の見つけた紛れもない唯一の「真実」だ。
「間違いじゃない?」
「ああ。」
「……俺は誰一人望まなくても、生き抜くつもりだよ。やらなきゃならない事があるからね。」
「やらなきゃならない事……?」
「ああ。」
だから、阿久津が何て言おうと、あさ美が哀しむ必要はない。
「これは自分との『約束』だ。」
それを果たすまでは、死に切れない。
最初のコメントを投稿しよう!