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 訳ありの指名なのだが、それでもあさ美は嬉しかった。 「こんにちは、あさ美ちゃん。水割りは上手になった?」 「……自信無い。」 「無くても作ってみて。」  そして高津は相変わらず濃かったり、薄かったりする水割りを口にする。 「……高津さん?」  何杯目だったのか、二人とも覚えていない。  ただ、珍しく高津は急に酔いが回ると周りが真っ暗になるのを感じた。  後から聞けば、急性アルコール中毒を起こして倒れたらしい。  次に目が覚めた時には、ICUで機械だらけになっていた。  看護師に連れられて、あさ美とママが病室に入ってくる。  あさ美は泣き腫らして目が真っ赤だった。 「ごめんなさい。」 「いや、飲むペース、考えてなくて迷惑かけたね。」  付き添って入ってきたママにも、少しだが疲労の色が見える。 「意識が戻って良かったわ。ご家族にも連絡は入れたんだけど……。」  高津の上司に連絡して、実家に連絡したものの、阿久津が出たようで「死んだら連絡を寄越してくれ」と言われたらしかった。 「そう言う家なんですよ……。」  苦々しげに高津が答えると、ママは「死んでないけど、連絡をしてくるね」と病室を後にした。 「『死んだら連絡をくれ』だなんて……。」  手を伸ばして、あさ美の頬に流れる涙を拭う。 「――哀しい、ね?」  あさ美が早くに両親を亡くして天涯孤独の身の上なのを、ママから聞かされて知っていたから、高津は「うん」とも「いや」とも返さなかった。  自分には父も、継母も継妹もいる。  ――たとえ、それが「帰れる場所」でないとしても。  高津はゆっくりと瞬きをした。 「生まれてくるところを誰も選べないよ。それは生まれてきた誰のせいでもない。」  何度となく自分に言い聞かせてきた言葉。 「……こうして生きてる事は、『間違い』なんかじゃない。」  それが高津の見つけた紛れもない唯一の「真実」だ。 「間違いじゃない?」 「ああ。」 「……俺は誰一人望まなくても、生き抜くつもりだよ。やらなきゃならない事があるからね。」 「やらなきゃならない事……?」 「ああ。」  だから、阿久津が何て言おうと、あさ美が哀しむ必要はない。 「これは自分との『約束』だ。」  それを果たすまでは、死に切れない。
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